故マルキオンネの“宣言”
アルファ ロメオのフォーミュラワン選手権(F1 GP)への復帰が発表されたのは、2017年11月のことだった。モータースポーツの名門として名を馳せ、1950年に開催された第1回F1 GPでジュゼッペ・ファリーナが駆る「アルファ ロメオ 158」が初優勝したことにはじまり、圧倒的な戦績でその年の年間チャンピオンを獲得したアルファ ロメオ。赤十字と大蛇のエンブレムが2018年、30年以上ぶりにF1へとカムバックを果たした。
当時、新体制を発表した「アルファ ロメオ ザウバー F1チーム」(当時)に世間の注目が高まった。11月29日に実施されたアルファ ロメオ ブランドとザウバーF1チームの記者会見では、当時のFCAのCEO、故セルジオ・マルキオンネは次のように述べた。「アルファ ロメオは、F1というスポーツの歴史を支えてきた名高い存在であり、メジャーな自動車メーカーがしのぎを削るこのレースへの参加者として、再び名を連ねます」。
アルフィスタが胸を躍らせる活躍
この会見で世界中のアルフィスタが、新たな歴史の始まりに胸を躍らせたことだろう。そして今、復活から2年目を迎えた2019シーズンのアルファ ロメオ レーシングは着実な進化を遂げ、ポイントを積み上げている。参戦1年目、アルファ ロメオ ザウバー F1チームは、マーカス・エリクソンと、新人ドライバーだったシャルル・ルクレールを起用してスタートを切った。
2戦目でエリクソンが9位入賞を果たし、4戦目ではルクレールが6位入賞を果たすなど、確かな手応えを感じさせた。そして2019シーズンは、アルファ ロメオ レーシングは、キミ・ライコネンとアントニオ・ジョヴィナッツィをドライバーに迎え、前シーズンをさらに上回るペースで邁進している。
今シーズン前半、サマーブレイク終了時点で、ポイント獲得数は32ポイントと、前シーズン(19ポイント)を大幅に上回るペースでチャンピオンシップを競っている。
ライコネンが鈴鹿に残した「16人抜きの伝説」
アルファ ロメオ レーシングの活躍を盛り上げているのが、2007年のF1チャンピオンであり、昨年はドライバーズランキングで3位に入った実力派ドライバー、キミ・ライコネンだ。初戦から着実にポイントを積み上げ、前半戦を終えた時点で31ポイントを獲得、ドライバーズランキングで8位につけた。
ライコネンといえば、2005年のF1 日本GPで、「16人抜きの伝説」を残したことで知られている。激しい雨に翻弄されたレースで、ライコネンの予選順位は17位と沈んでいた。ところがレースで好スタートを切ると、そこからも勢いが衰えることなく、ファステストラップを更新し、前を走るマシンを抜きまくった。そしてレースも残り数ラップのところでトップを行くマシンに追いついた。観客が固唾を呑んで見守るなか、最終ラップでライコネンは前のマシンに並びかけコーナーを先に立ち上がった。それはまさに奇跡的な勝利であった。その後のインタビューでもライコネンは、この時の鈴鹿を「自身のベストレース」と振り返っている。そのライコネンが今年、鈴鹿でどんなドラマを見せてくれるのか。期待は高まるばかりだ。
F1 日本グランプリ WEBサイト
数多くのドラマを生んだ鈴鹿
フォーミュラワン日本グランプリ(F1日本GP)が開催される三重県・鈴鹿サーキットは、1962年に設立された歴史あるサーキット。これまでにF1が30回開催され、この間、数々のドラマを生み出してきた。
かつてあの、アイルトン・セナはワールドチャンピオンがかかった1988年の日本GPで大逆転劇を見せ、優勝。間一髪のオーバーテイクの際に「神を見た気がした」と述べ、話題を呼んだ。また鈴鹿で4勝をあげたセバスチャン・ベッテルは「神が作ったコースのよう」と賞賛した。同じく鈴鹿で4勝しているルイス・ハミルトンも「世界最高のサーキットのひとつ」と高く評価している。
このように鈴鹿サーキットは世界の一流のドライバーたちから多くの称賛を集めている。
ドライバーの“本気度”が試される、世界屈指のテクニカルコース
一方、鈴鹿は世界屈指のテクニカルなコースとして知られている。1周約5.8kmのこのコースはオーバーテイクが難しく、1コーナーとシケインの進入の2箇所が主なオーバーテイクのポイントとなる。
走り慣れたドライバーでさえ完全な攻略は難しく、小さなミスがコースアウトといった致命的なミスにつながりやすい。だが、その難易度の高さがゆえにコースを制した時の満足感も高いようだ。なかでも名物とされるコーナーがいくつかある。ひとつはターン3から5までのS字コーナー。多くのドライバーは鈴鹿のS字を “エキサイティングなコーナー”と口を揃えて絶賛する。次に立体交差前のターン8と9、通称デグナーカーブ。ドイツ出身の2輪レーサー、エルンスト・デグナーが第1回全日本選手権ロードレースでトップを走行中、転倒したことからそのライダーの名で呼ばれるようにあったこのコーナーは、難易度が高く、ミスを誘発しやすい。また、バックストレッチ前のスプーンカーブ(ターン13、14)も鈴鹿の名物コーナーで、F1ドライバーですらその難しさに手を焼くと言われる。
ライコネン、15回目の鈴鹿に挑む
通算31回目の開催となる2019年のF1日本GP。
アルファ ロメオ レーシングは、この難易度の高い鈴鹿でどのようなレースを繰り広げるのか。注目はベテランドライバー、キミ・ライコネンの戦いぶりだ。ライコネンはこれまで日本GPに14回出走。16人抜きを果たした2005年の優勝のほか、2位1回、3位1回、4位2回、5位5回、 6位2回と優秀な戦績を残している。入賞率は85.7%と極めて高く、相性のいいコースといえる。
今年はこうした百戦錬磨のドライバーの経験がセッティングやチームの戦略に生かされることになり、アルファ ロメオ レーシングの日本GPでの戦いには大いに注目が集まる。また、日本GP初参戦となるアントニオ・ジョヴィナッツィにとって、若き才能を発揮できる場となることが期待される。
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