EPISODE 10GIULIA / STELVIO

− 新世代のアルファ ロメオ −GIULIA(2015) / STELVIO(2017)

ドライバーにエキサイティングなドライビング体験を提供する、アルファ ロメオのクルマ作りの哲学「La Meccanica Delle Emozioni(感情の力学)」。ジュリアとステルヴィオは、この哲学に忠実に作られた。開発に際しては、最初にハイパフォーマンスモデルである「クアドリフォリオ」を作り上げ、それをベースに他のグレードを設計していく“トップダウン方式”が採用された。これによりジュリアとステルヴィオ、2台のクアドリフォリオには「スポーツカーの聖地」であるニュルブルクリンク サーキットで、それぞれが属するセグメントのコースレコードを更新することに照準が定められた。2台のクアドリフォリオはその目標を見事に達成した。ステルヴィオはアルファ ロメオ初のSUVであるのと同時に、「最速のSUV」として産声をあげたのである。もっとも、ニュルブルクリンクの記録はジュリアとステルヴィオにとって数多ある功績の一部でしかない。現にこの2台はアルファ ロメオの歴史上、最も多くのアワードを世界中で獲得しているのだ。

その日、ノルトシュライフェの空は、まるで巨大な絵画のように彩られていた。ニュルブルクリンク サーキットの北コース。周囲を取り囲む緑の上に大きな雲がそびえる。空気は冷たく、乾燥していた。それはニュルブルクリンクに挑むドライバーにとって、理想的とされるコンディションである。2016年9月、ジュリア クアドリフォリオは、アルファ ロメオがこれまでいくつもの勝利を挙げてきた、このニュルブルクリンクに持ち込まれたのである。“グリーンヘル”の異名を持つこの過酷なサーキットで、記録を打ち破ることが目的である。「緑の地獄」という、不吉極まりないその呼び名は1960年代に偉大なレーサーである、サー・ジャッキー・スチュワートによって付けられたとされている。まさに「悪魔がデザインしたサーキット」さながらに、高低差は実に300mにもおよび、70以上のコーナーとストレートが交互に組み合わされている。

スタート地点。ジュリア クアドリフォリオの準備は整った。マシンはこの日のため特別にしつらえられたものではない。タイヤはスリックではなく、ロールバーすら備えていない。誰もがその気になれば買うことのできる市販車である。ヘルメットを被っていなければ、ジーンズとポロシャツに身を包んだドライバーは、一般のギャラリーに見えてしまうだろう。グリーンライトが点灯したり、チェッカーフラッグが待ち構えているわけではないが、打ち破るべきタイムを前に、ドライバーのアドレナリンレベルは最高に高まっていた。

ALFATM DNAドライブモードシステムのモードを“Race”に入れ、轟音とともに加速していく。7分と32秒後、戻って来たドライバーの表情は晴れ渡っていた。ストップウォッチが刻んだ数字は、2015年に更新されていたそれまでの記録を、実に7秒も下回っていたことを伝えていた。それから1年後、今度はステルヴィオ クアドリフォリオが、さらに偉業を成し遂げた。同カテゴリーのコースレコードを8秒も下回るタイムを記録したのである。こうしてジュリアとステルヴィオは、世界で最も難しいコースとされるニュルブルクリンクで、セダンとSUVカテゴリーで「最速」の座を奪取した。

アルファ ロメオに関するニュースで“ジョルジオ”という名前が、メディアを駆け巡ったのは2013年のことだった。その紙面は、「次世代アルファ ロメオのプロジェクトが進行中で、“ジョルジオ”という新設計プラットフォームを採用」と伝えられていた。この出来事は、ソーシャルメディアでも世界中の自動車ファンの話題をさらった。“ジョルジオ”とは何を意味するのか?多くの人が疑問を抱いた。

ロマン派の人々は、かの名レーサー、タチオ・ジョルジオ・ヌヴォラーリへのオマージュではないかと考え、ある人は(当時FCAグループのCEOであった)セルジオ・マルキオンネのアイデアを反映したものではないかと思いを張り巡らせた。だが、真実は今日にいたるまで明らかにされてはいない。ただ、確かなことは「ジョルジオとは後輪駆動、ならびに4WD用の次世代プラットフォームであり、野心的な設計目標が設定されている」ということであった。アルファ ロメオは、そのプラットフォーム開発とニューモデル生産のため、カッシーノ工場に莫大な投資を行った。さらに、社内に最高の技術集団を集めた“シンクタンク”を編成。関連する製品企画チームやデザイナー、設計者に、古い慣習やしがらみ、従来の枠組みをすべて払拭し、「信じ、夢を描き、創造する」よう求めたのであった。ジョルジオの開発チームは、社内で他チームとは独立した環境で、新世代プラットフォームの開発に専念した。開発チームには特別な呼び名が与えられた。そして、チームもそれを誇らしげに受け入れた。その名は“スカンク”。その由来は、そこから70年前に遡ることとなる。

ロッキード社の航空エンジニアであるクラレンス・レオナルド“ケリー”ジョンソンは、1943年に特別なプロジェクトを任された。それは、第二次世界大戦に参戦するジェット戦闘機をわずか6ヶ月でゼロから開発するという任務であった。これは普通に考えれば不可能な挑戦であったが、ジョンソンは自由裁量を得るという条件付きで引き受けた。約束の開発期間の残り1週間というギリギリのタイミングで、彼はアメリカ初のジェット戦闘機となる、革新的な“XP-80シューティングスター”を完成させたのである。ジョンソンのチームは、“スカンクチーム”と呼ばれていた。このストーリーになぞらえ、ジョルジオ開発チームは“スカンク”と呼ばれることとなったのである。彼らもまた“白紙”の状態から短い開発期間で、野心的な開発目標を達成することが求められていたのである。ドライバーをすべての中心に据え、アルファ ロメオがこれまでに築き上げてきた伝統と価値にふさわしいドライビングエクスペリエンスをもたらす。そんな「新世代のモデル」を生み出すというミッションであった。このスカンクチームが成し遂げた仕事が、現在におけるアルファ ロメオの基礎となったのである。

ジョルジオ プラットフォームの潜在能力がもっとも色濃く現れているのは、ジュリア クアドリフォリオである。この時、ニューモデルのローンチはアルファ ロメオ内部でも「極秘」とされ、画像や情報がメディアに流出しないよう、細心かつ厳重な注意が払われた。そして、ローンチ当日までモデル名すら明かされることはなかった。30年以上の時を超え、偉大なる復活を果たした新生ジュリアの登場は、アルファ ロメオにとっても重要な日に世界へ向けて発信された。ブランド105周年のアニバーサリーである2015年6月24日。世界中のファンが待ち望んでいた「次世代のアルファ ロメオ」の誕生。それが「ジュリアの復活」という最高の形でアナウンスメントされたのである。アレーゼのアルファ ロメオ歴史博物館で行われた発表会では、オペラ歌手のアンドレア・ボッチェリがプッチーニ作曲の『ネッスン・ドルマ』を歌唱し、得も言われぬ美しい歌声が、会場中に響き渡った。それはまさに、アルファ ロメオの“過去”と“未来”が完全につながった瞬間であった。

ジュリアをはじめとするニューモデルの開発目標は、アルファ ロメオの伝統に従ったものだった。それはすなわち、「革新的なエンジン、完璧な重量配分、独自の技術的ソリューション、クラス最高のパワー・ウエイト・レシオ、そしてまごうかたなきイタリアンデザイン」これらすべてを実現することであった。ジュリアは完全新設計となるオールアルミ製エンジンを搭載。クアドリフォリオのV6ツインターボエンジンは、最高出力510hp、最大トルク600Nmと4ドアセダンとして、規格外ともいえる性能を実現した。前後重量配分は理想的な50:50とするため、各部品には素材の厳選と最適化が図られた。サスペンションは、フロントがセミバーチャルステアリングアクスルを備えたダブルウイッシュボーンサスペンションで、コントロール性に優れ、最適なグリップを確保することが追求された。ハサミのような動きをする2本のロワリンクを持ち、12:1というクイックなステアリングレシオとあいまって、あらゆる路面状況下でリニアなフィーリングを実現した。一方、リアにはマルチリンクサスペンションを採用。コーナリング中に高い剛性を発揮する一方、縦方向の動きに対しては柔軟に動く設計とされた。これらの技術はすべてアルファ ロメオの独自設計である。

理想的なパワーウエイトレシオを実現するため、車両のいたるところに超軽量素材が採用された。エンジンヘッド、ボディ、サスペンションはすべてアルミニウム製で、リアのクロスピースにはアルミニウムと樹脂の複合素材を採用。ドライブシャフトやボンネット、ルーフ、フロントシートの構造材はカーボンファイバー製とされた。これら超軽量素材の採用により、ホワイトボディ重量はわずか322kgに収められた。電子デバイスの開発チームは、安全性とドライビングプレジャーを高めながら、同時に運転の自由度を残すことが求められた。チームは、アルファ ロメオらしさを実現するために、様々な専用システムを開発。必要な時のみに自動介入するQ4 ASR(アンチ スリップ レギュレーション)や、ブレーキとスタビリティコントロールを制御するインテグレーテッドブレーキシステム、コーナリング時のレスポンスを高めるディファレンシャルリニアスリップ、後輪左右の駆動力配分を最適化し、トラクションとステアリング特性を向上させるALFA™️トルクベクタリングなどである。そしてこれらすべての機能を統合制御する“超頭脳”として働く、専用のALFA™ シャシードメインコントロールを採用した。一方、ボディはハリのある力強いデザインとされ、その卓越したパフォーマンスを想像させた。開発チームは均整の取れた美しさと、Cd値0.25という卓越したエアロダイナミクスの融合を目指し、それを実現した。

究極のスポーツモデルを生み出す際、多くの自動車メーカーが標準モデルをベースに、部分的に構造を変更したり重量を軽くしたりして、性能を高める方法を採っている。またその製造は異なる生産ラインで行われる場合が多く、サプライヤーがそれを請け負うこともある。一方、アルファ ロメオは、まず最高峰モデルに位置するクアドリフォリオを作り上げ、それをベースに他のグレードを生み出す“トップダウン方式”を採用した。したがって標準モデルとクアドリフォリオのボディアーキテクチャは共通で、軽量素材やその他多くの機構も共有している。組み立てもカッシーノ工場の同じラインで生産されている。この事実は、すべてのモデルが理想的な前後重量配分を持ち、ねじれ剛性も変わらず、ステアリングやサスペンションのメカニズムも、すべてにおいて最高レベルが追求されていることを意味している。

アルファ ロメオはジュリアの開発と並行し、SUVセグメントにおいても運動性能で他の追随を許さない、革新的なクルマを作ることを計画していた。2017年2月に発表されたステルヴィオは、アルファ ロメオにとって初のSUVである。パフォーマンス、ハンドリング、路面追従性を犠牲にすることなく、雪道やダートでもアルファ ロメオらしい走りを実現する。これは並大抵のことではなかったが開発チームは総力を結集し、スポーツセダンのようなパフォーマンスを誇るSUVを完成させた。ステルヴィオは、ジュリアに比べて床面やドライビングポジションが高い。また居住空間やラゲッジルームは広く確保。サスペンションのトラベル量が長く、オフロード走行も考慮してグランドクリアランスが広く確保されている。スタビリティを確保するためにトレッドはわずかに拡大されているものの、ボディアーキテクチャはジュリアと共通のものであり、エンジンや電気系統も同じ部品を採用している。こうしてジュリアの基本性能を受け継ぐことで、ステルヴィオはSUVとは思えない独特のドライビングエクスペリエンスをもたらすクルマに仕上げられた。ステルヴィオ、それはSUVのボディをまとった生粋のアルファ ロメオなのである。

ジュリアとステルヴィオが、スポーツ性能の高さとドライバーの意のままに反応するドライブフィールの面において、セグメント随一の性能を有していることは疑う余地もない。基本性能の高さはクラストップレベルにあり、したがって2020年モデルにおける改良では、車内で過ごす時間をより心地よいものとすることに重点が置かれた。開発チームは、ブランドの伝統的な価値である“エレガントなスポーティ”を追求。見せかけのプレミアム感ではなく、デザイン性や機能、ドライブの高揚感がバランスよく統合された、アルファ ロメオらしい価値を創造すること。開発チームはこうした思いを胸に次なるステップを踏み出したのである。

2020年モデルでは、快適性とイタリアらしい感性を体現する方向で改良が実施された。ジュリアとステルヴィオそれぞれで、質感をさらに高めながら、デザインと機能の見直しを実施した。具体的にはスマートフォンのような使い勝手を実現した8.8インチタッチスクリーンを備えたインフォテインメントシステムにより、コネクティビティを大幅に進化。また近年ますます重要視されている運転支援システムについても機能が充実し、先進のドライバーアシストを採用。ドライバーに危険を警告するだけでなく、必要に応じて運転支援をシステムが行うことで、安全性がさらに引き上げられた。

過去5年間で、ジュリアとステルヴィオは、歴代アルファ ロメオ車の中でもっとも数多くの賞を受賞している。新聞をはじめその他メディアや専門家の評価、顧客からの投票など、世界で獲得した賞の数は実に170にも及ぶ(2020年6月時点)。2016年に“ユーロカーボディ・オブ・ザ・イヤー”をジュリアが獲得したことにはじまり、最高のボディアーキテクチャを追求するプロジェクトは数多くの高い評価を得て、いまなお受賞数は増え続けている。自動車の専門家が全カテゴリーのスポーツカーを対象に審査する”What Car?“の“パフォーマンス・オブ・ザ・イヤー2020”は、3年連続でジュリア クアドリフォリオに贈られた。アルファ ロメオの開発チームはこうした第三者の評価を誇りと原動力に、“毎日乗れるハイパフォーマンスカー”に磨きをかけ続けているのである。

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